大会会長挨拶

変化の時―現代人はいつ大人になるのか―

新元号となる今年、国際力動的心理療法学会は四半世紀の節目を迎えます。女になる、男になる、そういった言葉がタブーになっている今日、現代人の人格発達の節目の体験は大きく変わりました。「変化の時Time to Change」です。男と女はボーダレスとなり、人間の多様性と自由を得ているかのように見えて、差異を無くしてしまった結果、境目は曖昧となり、個人が失われつつあるパラドックスを生んでいます。アイデンティティの危機はエリクソンの時代よりも格段に深刻になっているようです。また、養育は育てるよりも育つものだとして、直接的な相互作用が失われつつあり、情緒発達の安定基盤は脆弱になっています。その上、欲求を自力で充足する必要もなくなりつつあるのです。本来、親から離れて一人で生きていく術を身につけていくことが「発達」でしたが、この本質が崩れて始めています。

このような時代に、私は女性の臨床家として、現代の人々はいつ大人になるのか、女性の成熟について関心を持っています。ハリウッドでMe too運動が広がる中、フランスの女優、カトリーヌ・ドヌーブは、女性が個人で戦えず、集団化している問題を指摘しました。臨床家は患者/クライアントが個人でいられるよう務める必要があります。現代の人々に心理療法の中でその時間・空間をどのように創成していくのか、新たな臨床課題がここにあると考えています。最新の知識と技術をここ「東京」に集め、現代人への臨床をより豊かにするための学会にしましょう。

大会会長 中村有希
PAS心理教育研究所 クリニカルディレクター
国際力動的心理療法学会(IADP)理事
東京医科大学 非常勤講師

大会会長プロフィール

心理療法家(資格:臨床心理士)・博士(教育学)

【専門】精神分析的心理療法。人間の攻撃性を創造性に転換するメカニズムの研究で博士号を取得。PAS心理教育研究所、精神分析的心理療法課程、専攻科修了(5 年間)。抑うつ予防、PTSD予防のための心理教育プログラム(Socio-Energetic Training:SET)開発と実践およびトレーナー養成、女性の成熟に向けての発達課題の研究を進めている。

【略歴】福岡県生まれ。国際基督教大学博士後期課程修了。国際基督教大学高等臨床心理学研究所助手を経て、現パス心理教育研究所ディレクター、東京医科大学非常勤講師。

【主著】

  1. 小谷英文・中村有希・秋山朋子・橋本和典(2001)青年期アイデンティティ・グループ -性愛性と攻撃性の分化統合を中核作業とする技法の構成-」『集団精神療法』第17巻1号, pp.27-36. 
  2. 中村有希(2008)現代青年における攻撃性の心理力動と表現の人格発達的意味 国際基督教大学大学院博士論文. 
  3. 中村有希・小谷英文(2009). 高度専門看護実践家に必要な治療と技法精神療法とカウンセリング.日本専門看護師協議会(監修)宇佐美しおり・野末聖香(編集)精神看護スペシャリストに必要な理論と技法日本看護協会出版会80-96.
  4. Kotani, H., Nakamura, Y., Hashimoto, M., & Hanai, T. (2016). Prevention and Treatment of Post Traumatic Stress Disorder in the Aftermath of Disaster. In Haen, C. & Aronson, S. (Eds.) The Handbook of Child and Adolescent Group Therapy. Chap. 39. London: Routledge