力動的事例研究 ワークショップ
トレーナー:小谷英文(IADP 理事長/ PAS 心理教育研究所)
臨床研究における事例研究は、理論、技法、技術の向上のために欠かすことのできない科学的営みであるが、昨今その確かな研究成果が上がっていない。力動的心理療法の今後の発展において重要であるだけでなく、人に対する臨床的関わりにその真実性を追求する心理療法家にとっては、それが心理療法そのものであるともいうべきものである。研究発表や成果が少ないのは、その手続きや分析、考察への十分な馴染みがないこともあるであろう。前回大会に続き、本ワークショップでは、より実践的に持参の研究をさらに3歩進めて持ち帰れる協働研究作業を行う。研究に向けて事例報告を簡潔にプレゼンできる準備をし、参加を楽しみましょう。
定員 20名
参加資格 自験例の事例報告を持参できる大会参加者
変化の瞬間をとらえる技法:安全空間生成のためのPAS 基礎技法
トレーナー:中村有希(PAS心理教育研究所/東京医科大学)
永山智之(兵庫教育大学)
心理療法の始まりは、主訴を軸として契約を結ぶところから始まるが、問題を言語化することはできても、その問題に取り組む自分自身の動機、意志を明瞭にすることができるクライアント・患者は少ないのが現実である。「言われてきた」「よくなるのなら」と来談する患者・クライアントに心理力動があり、それは見えることよりも見えないことの方が多いため、セラピストが心の働きへの関心を示さない限りは、本人も自らを知ろうとすることは難しい。来談する患者・クライアントが相談に入る準備を整え、クライアントへの道を辿ることができるよう安全空間を生成する面接技法を訓練する。
テキスト:小谷英文(2018)精神分析的システムズ心理療法‐人は変われる‐PAS出版部
定員:15名
対象者:大学院生、心理面接を行っているカウンセラー、セラピスト初心者、看護師、教育者
うつ状態を有する慢性疾患患者へのセルフケアプログラムとPASセルフケアセラピィー実践・研究能力の向上を目指してー
トレーナー:宇佐美しおり(四天王寺大学看護学部・看護実践開発研究センター)
慢性疾患患者のうつ状態・うつ病が増え看護介入技法が必要となっている。地域包括ケアと共に多職種連携・退院支援が推進されているが、セルフケアのアセスメントと介入技法は不明確である。今回慢性疾患患者・家族に対するオレムーアンダーウッドのセルフケアプログラム~セルフケアプログラムでは効果不十分なケア困難患者に対するPASセルフケアセラピイについてロールプレイを行い、事例検討・事例研究としてまとめる。さらにセルフケアプログラム~PASセルフケアセラピイを用いた看護研究の検討を行う。
定員:20名
対象者:看護職、高度実践看護師(CNS,NPなど))、看護管理者、看護教育者
心理療法の最初の3時間
トレーナー:ラルフ・モラ, Ph.D., MSS., CAIA(メリーランド大学アジア地区)
患者と一緒に治療を進めるかどうかの決定は、患者の主な問題、セラピストと患者それぞれの治療契約を結ぶ能力、そしてセラピストの技能と専門的知識のレベルによって行われる。したがって、臨床家にとっては、患者を客観的にアセスメントすると同時に、自分自身を観察することが重要となる。患者がよくなるのを助けるという共通の願望を持ったセラピストと親密な絆を結ぶ患者自身の能力と同様に、セラピストの主観的な体験も重要である。
このワークショップは初心のセラピストを対象とし、とくに患者とどのように治療関係を構築し、また維持するかを学ぶことを目的としている。これは、患者とセラピスト双方にとっての治療体験の基礎をかたちづくる。このワークショップでは、最初のインテークや、実用的な診断と予後の見通しを含んだケースフォーミュレーションなどの、治療初期の問題に焦点を当てる。後者は、治療の現実的な目標に必要なものを確立することの助けになる。同様に、このような情報は治療契約の展開に役立つ。このようなプロセスを通じて臨床家の戦略は形成され、この戦略が正確に用いられることによって、セラピイの初回セッションで最初に用いられる戦術や技術が実際に使えるものとして身につき、セラピストが患者との仕事において進むべき方向性を掴むことができるようになる。
講義では、患者との接触の最初の3時間において何が本質的かを参加者がより豊かに理解するのに役立つ資料、ビデオ、体験資源を用いる。
定員25名
心理療法家のプロフェッショナル・アイデンティティのためのプロセスグループ
トレーナー:セス・アロンソン, Psy.D.(ウィリアム・アランソン・ホワイト研究所)
私たちの関係性世界は、個人的なつながりと意味のある相互作用を重視している。このプロセスグループのメンバーは、参加者と観察者の両方の立場からグループプロセスを検討するという体験から学ぶことができる。グループ体験によって、グループの概念とリーダーおよびメンバーの機能に関する知識を十分に深めることができ、また「今ここで」の対人関係上のできごとを観察し、それに向き合う機会も得られる。リーダーは安全空間(Kotani, 2004)を提供するために動き、グループは、体験から何を得たいかについての目標と希望を含む、グループの枠組みを発展させることに一緒に取り組む。Yalom and Leszcz(2015)による対人関係の学習の場としてのグループという考えは、私たちのグループ体験における重要な指針となるだろう。
定員:25名
学生相談における心理療法
トレーナー:石川与志也(ルーテル学院大学)
学生相談領域においては、「相談件数の顕著な増加という量的課題」と「対応に苦慮する相談内容の増加という質的課題」が指摘されている(日本学生支援機構, 2007)。このような課題の増加は、現代社会において青年の心の成熟が困難になっていることの反映と考えられる。学生相談においても、問題の整理や関係機関につなぐだけでなく、発達の停滞を解き、心の成熟に取り組む心理療法が必要になっている。本ワークショップは、学生相談というセッティングにおいて心理療法を行う可能性を追究することを目的とする。
この目的の達成のために、以下の2点を到達目標とする。
1.従来の精神分析の青年期発達理論の基礎を踏まえ、現代の若者固有の困難さと発達可能性を理解すること。
2.学生相談における心理療法の特徴と可能性を理解し、必要な技法の基礎を身につけること。
- 参加者より学生相談における事例を募集する。自分が困ったり、難しいと感じたインシデントを出せる人は事前に申し出てください
定員:10名
参加資格:学生相談や青年期臨床に携わっている専門家および関心のある専門家や大学院生
応答構成入門;心理面接における臨床的態度の精錬ために
PAS心理教育研究所 能 幸夫・髭 香代子
岩石の中から貴重な金属を取り出していくことを精錬といいます。それは不純物を取り除いていくことです。刀鍛冶が鉄を鍛えるとき、一叩きごとに、飛び散る火花と一緒にその不純物は取り除かれていきます。
臨床的態度とは、『クライエントの個別性とその主体性をそのままに尊重し護り、クライエント自身が独立した存在としての自己の保存と成長、発達を踏まえた実現過程に自身のエネルギーを十全に投入できる「今ここでの」人的環境を整える態度』と定義されます。
この臨床的態度にはさまざまな不純物が混じっています。その不純物を取り除き、“今ここでの”もっとも率直な応答が構成できたとき、そこにクライエントの成長可能性を促進する対話が生み出されます。
応答構成とロールプレイ演習を用いて、ともに、この臨床的態度に磨きをかけてみましょう。
定員:12名
対象:心理面接に取り組む心理師、医師、看護師、カウンセラー、学び始めの大学院生など、初心者からベテランまで。
<応答構成とは>
クライエントの発言に対する面接者の応答を組み立てていく応答構成は、臨床家の「考えと認知」(P)、「気持ちや感情」(E)、「行動」(A)と、クライアントの「考えと認知」(P)、「気持ちや感情」(E)、「行動」(A)を識別し、その上で、自分の捉えたクライアントの体験についての理解をクライアントに伝えていくことを習練していきます。