「関わりの相互性と変化すること」
鑪 幹八郎(広島大学 名誉教授/京都文教大学 名誉教授)
日ごろ、心理療法の場で私たちは何をしているのだろうか。人と人との関わりが深まれば深まるだけ、相手の世界を知ることになり、それが変化、治療につながって、相手を成長に導く。この関わりをエリクソンは「関わりの相互性」と呼んでいる。この相互性の原理に基づいて、私は日ごろの臨床に従事している。
私たちの臨床の場は、その人と深くかかわることは、その人を深く知ることであり、信頼感と安全感を生み、相手の中に自信を生む。そこでは相手が自分と異なる存在であることを前提にしている。相手が異なるから、私と違った他者だから、その人を知るためには慎重に接近し、緊張感をもって、近づくことになる。
相手が私と違った他者であることは、相手が未知の人であることを意味する。私の投影を許さない重要な他者としての存在である。それが出会いの前提である。自分にとって相手は、未知の世界の人である。大人同士も、大人と子供も、そして男と女も未知の他者である。深い意味において他者であることが、私が相手を知ろうという働きを促進する。
他者である人間関係のあらゆるところに、この相互性は存在している。教師と子ども、親と子、友人と友人、男と女、そして国と国。変化の時代に変わらないものは、人と人が深く、生産的に、お互いが成長する関係として関わり合うこと。 そして心理療法は、その基本構造を備えた人間関係なのだと確信し、私は毎日の臨床に携わっているのだが……。
講演者プロフィール
教育学博士(京都大学)。臨床心理士。広島大学名誉教授。京都文教大学名誉教授。ウィリアム・アランソン・ホワイト研究所にて精神分析の訓練を受ける。青年期臨床、アイデンティティ研究、エリクソン研究をリー ドしてきた、日本を代表する精神分析家であり、日本の臨床心理学・臨床心理士の発展に最も貢献されたお一人である。